ピロリ菌と除菌療法について

 ヘリコバクター・ピロリ菌感染が胃・十二指腸潰瘍、胃がんの原因と考えられています。幼少期に口から入ったピロリ菌が胃の粘膜に感染し増殖します。ヘリコバクター・ピロリ菌は胃の中を傷つける性質があるので結果「慢性胃炎」となります。その結果、潰瘍やがんが発生する粘膜の素地を形成しているものと考えられます。

 感染の原因はよくわかっていないところもありますが、井戸水などを口にする事で感染したのではないかと推測されています。そのため水道水だけを口にして育った世代は感染率が非常に低いです。ただしご家族(特に母親)がヘリコバクター・ピロリ菌に感染していると子どもに感染する事があるため、水道水だけで育った若い世代の方でもご家族に胃十二指腸潰瘍や胃がんの既往がある場合は要注意です。

 2020年現在ではヘリコバクター・ピロリ菌を持っている方全てが除菌療法を受けられます。ただし前もって上部消化管内視鏡検査で既に胃がんできていないか確認する必要があります。

 治療方法は胃薬と抗生物質2種類を併せて朝晩2回7日間の服用する事で約90% の方が除菌に成功します。除菌不成功だった場合は薬の内容を変更して二次除菌療法を受けて頂く事で殆どの方が除菌に成功します(稀に二次除菌も不成功となる場合もありますが、三次除菌は2020年の時点で保険適応外です)。

 1週間の服用という至って簡単な方法ではありますが、治療に際して時々副作用がみられる場合があります。稀ではありますが特に薬疹が重症となる事があり注意が必要です。

除菌に成功すると胃十二指腸潰瘍の再発は殆どなくなります。しかし問題は胃がんです。

ヘリコバクター・ピロリ菌は20歳までに除菌するとほぼ健常な胃と同じ程度の胃がん発症リスクまで下げられます(ヘリコバクター・ピロリ菌を持たない人は99% 胃がんにならないと言われています)が、ヘリコバクター・ピロリ菌発見時の年齢が高くなると胃がん予防リスクは低くなると言われています。総じて1/3 程度の胃がん予防効果と言われていますが、実際には男性では70歳、女性では80歳に除菌療法が成功しても胃がんの予防効果はほぼないようです。もちろん胃十二指腸潰瘍の予防にはなりますが。

そのためいくら除菌に成功したからといって「一生胃がんにならない」とは思わないでほしいのです。定期的な上部消化管内視鏡検査を受けて頂く必要があります(バリウム検診は不要です)。

除菌後の胃がん発症リスクは除菌された時点で胃炎が強かった方ほど高くなると思われます。

そのため上部消化管内視鏡検査を受ける間隔としては除菌を受けた時に胃炎の程度が強かった方は年1回、胃炎の程度が弱かった方は2-3年に1回受けて頂く事をお勧めしています。仮に胃がんを発症しても定期的に上部消化管内視鏡検査を受けていれば早期がんで発見される確率が高くなり、内視鏡治療で完治が期待できます。

尚、ヘリコバクター・ピロリ菌を持っていない方の胃がん発症リスクは極めて低いのですが、稀にヘリコバクター・ピロリ菌陰性胃がんがみつかる事もあるので任意で上部消化管内視鏡検査を受けて頂く事をお勧めします。学会では5年ごとの内視鏡検査を推奨していますが、交通事故レベルの事象なので受診間隔は自己責任で決定して頂ければと思います。